平日の朝は六時半に起きて。
 朝ゴハンは、とろけるチーズ乗せの六枚切りトーストを一枚にコーヒー、ヨーグルト。一人だったらこんなもの。
 着替えて支度して八時半までに間に合うように、八時ちょっと過ぎにマイカーで出勤。

 定時は五時半で、残業はほぼナシっていう良心的な今の会社は。再就職して一年ちょっと。資材関係の物流倉庫の経理事務で、中途採用してもらった。

 大学進学はしないでビジネス系の専門学校に行った後。リクルートスーツ着る、念願のOLにもなったんだけど。二年足らずで事情があって辞めた。
 今の会社はまあ。オフィス街にあった前の会社とはイロイロかけ離れてる。でも条件もお給料も、居心地も悪くない。
 最初は愛想ナシに見えた事務のオバチャンや作業服姿のオジサン達とも、馴れて打ち解ければ、何だかんだと世話焼いてもらってたり。

 一人でもちゃんとやれてるトコ、遊佐に証明して見せないとね。
 その為に家も離れた。

 もちろん一人暮らしには、おじいちゃんもお父さんも大反対。おばあちゃんの鶴のひと声が無かったら、この一歩は踏み出せてなかった。


『宮子。あなたが本気で真さんと連れ添いたいと思うなら。ここが正念場ですよ』

 礼儀作法にはお小言ばっかりのおばあちゃんだけど、遊佐のコトで何かを云われたのは、あれが初めてだった気がする。
 しっかりやりなさいって毅然と見送られて。今も黙って見守ってくれてる。厳しいけど、やっぱり大好きなおばあちゃん。

 あたしを生んで亡くなっちゃったお母さんも、草葉の陰で笑ってそうなほど。愛情をこれでもかって注いでくれる人達があたしには沢山いる。
 お父さんの右腕として、ずっと支えてくれてる哲っちゃんも。
 まるで遊佐と本当の姉弟みたいに、あたしのお母さんでもいてくれる瑤子ママも。

 いつだって一番あたしをわかってくれる遊佐も。


 だから。


 あたしはもうずっと。遊佐の傍を離れるつもりは無かった。自分に出来るのはそれぐらいしか無いって思ってた。
 でもあんたは。にべも無かったよね。

『そうやってお互いの人生、潰し合ってナンか残るの? カンベンしてよ』


 オレはオマエがいなくたって生きてけるんだよ。 

 突き放すようにシニカルに嗤った遊佐の顔。
 心底、怖かった。怖気が走って心臓が破裂しそうにバクバク言った。
 息苦しくなって躰に震えまで来て。

 遊佐がいなくなる。あたしから消えちゃう。うそ。やだ。ダメ。やだ、やだ、そんなの絶対にやだぁ・・・っっ。
 だってあたしはあんたがいない人生なんて考えたコトもないのに・・・!
 あたしは、遊佐とじゃなきゃ生きてけないのに! 



 あの時の、死にそうなほどの絶望感を思えば。なんだって出来る。
 明日も。その先も。
 遊佐の隣りに戻るために、あたしはここにいるの。


 バッグを肩に、ジーンズの足許にスニーカーを履く。
 すっかり春めいた朝陽に目を細め、愛車が待つ駐車場へ。
 さてと。今日も一日ガンバリますか!