「・・・・・・仁兄・・・」

 自分で一瞬、顔が強張ったのが分かった。遊佐に気取られる。どうにか平然を装い「・・・ごめん、気付かなかった。榊がジャマで」。
 仮面を貼り付け、上辺だけで笑った。

「珍しいね、仁兄が来るなんて」

 目が合う。
 お互いにどこか探り合いの色を乗せて。

「たまたま本部で会ったら、真に引っ張って来られただけだ」

 ネクタイしたスーツ姿。嘘だなんて思ってないけど。
 神サマってほんと意地悪すぎだよ。このタイミングで偶然なんて。

「・・・そ。お疲れ様さま、・・・上がって?」

 言いながら来客用のスリッパを揃えて出すと。

「ここは俺の家だろうが」

 ククッと可笑しそうに笑い、仁兄はあたしの頭をひと撫でして廊下の奥に消えてった。


 深く。息を逃して。
 あたしはお腹の底に力を籠める。

 仁兄がもし何を言い出したとしても。一欠片だって自分がブレたりしないように・・・!