「・・・俺は本気でお前に惚れてる。お前を守る為なら、どんなに恨まれても構わねぇよ」

静かな声だった。

あたしはただ茫然と立ち尽くすだけ。混乱して何も言えない間に離れた仁兄はキッチンから出てった。

本気。って。唇を噛みしめる。そんなのどうしろって言うのよ、仁兄・・・!

「哲っちゃん」

ぐるぐるした頭を抱え、どうにか一枚も皿を割らずに洗い物を終えたあたしは、何気ないフリでみんなの前で声をかける。

「食後の散歩に付き合ってー?」

不謹慎だけど、遊佐の脚が悪くなかったら哲っちゃんを誘えなかった。
 
「ママちょっと哲っちゃん借りるねー?」

「いいわよ、いってらっしゃい」

仁兄が帰ってるのが嬉しいのかママは普段より上機嫌。 

「榊、もうあんまり遊佐に呑ませないでよー?」

「・・・・・・・・・」

釘を刺したのを無視された。お酒が入ると榊は誰の言うコトも聴かない。

家では着流しの哲っちゃんと手を繋ぎ、雑木林の中の小道をゆっくり歩く。涼やかな夜気が心地いい。

哲っちゃんの家は本家の敷地の一画に建てた家で。だからこの林も小道も、ウチの敷地内。監視カメラが至るとこに付いてるし、外灯も完備で、ほんとは真夜中に一人で歩いたってセキュリティは万全だったりする。 

「・・・煙草いいかい?」

「いいよ」

あたしが手を離すと、袂からおもむろに外国の銘柄のボックスを取り出し、火を点けて紫煙を長く逃す。その仕草もまた色っぽくて、キュンとなった。