仁兄は、父親違いでも遊佐のお兄さんだ。あたしにとってもそうだった。
 歳がちょっと離れてるから、一緒に遊んだ記憶は薄いけど。面倒臭そうな素振りしても、宿題手伝ってくれたり試験勉強おしえてくれたり。頼りになるお兄ちゃんだった。昔から。

 四大出て、コンサルティング会社を自分で立ち上げて。今は哲っちゃんの組下で、小さい事務所構えて組長もやってる。見せないけど努力家だって知ってる。出来のいい自慢の“お兄ちゃん”だって。“妹”のあたしはずっと、そう。


 仁兄が。ダカラ。

 自分と結婚しろ。ナンテ。

 言うハズ。ナイ。

 遊佐と。あたしを。

 引き離しにかかる。なんて。



 ココロがひしゃげて潰れて、千切れる。

 頭の片隅ですがるように。ナニかに手を伸ばして。空(くう)を掴む。


 
「・・・・・・・・・なんで仁兄がそんなコト、言うの・・・?」  

 顔を歪めて堪えてるあたしを。仁兄は顔色ひとつ変えず、ただじっと見つめてた。

「あたしは遊佐に守って欲しくて一緒にいるワケじゃないよ・・・! 自分の身ぐらい自分で守る、今度はあたしが遊佐を守る。一生そばにいるって決めてるんだから、絶対に・・・っ」   

 
 ぶつけるように言い放った後。
 ユキちゃんに「また来る」とだけ、笑う余裕すらなくバッグを手にして行こうとしたのを、ぐっと二の腕を掴まれた。

「・・・自分の立場を自覚しろ宮子。臼井の跡取りはお前だけなんだぞ」

 冷ややかな眼差しごと振り切り。足早に店を出た。


 自分が怒ってるのか傷付いてるのか、それすら分からないほど。仁兄の言葉がショックだった。

 マンションに帰るタクシーの中で、ずっと我慢してたものが堰を切って溢れて流れた。 


 部屋でひとり、嗚咽を殺さずに。泣いた。