「さっき哲っちゃんから電話きたよ。おじいちゃんの古希祝いやるから来いって」

 溜め息雑じりに。
 あんまり実家には帰りたがらない、と言うか。いかにも、的な場を好まないあたしを知ってる遊佐に、取り繕っても無駄だから。素で話す。

「ほんとはさ、今度の休みにプレゼント買いに行って、来週の土曜にでもこっそり帰るつもりだったんだよねぇ」

『まぁ諦めな。一ツ橋本家の会長の古希ってなりゃ、イヤでも張り切るヤツがいるんだよ。外で貸し切るとか言い出したら面倒だろ。だから本家でやれって、オレがオヤジに言ったの』 

「あ、そう。諸悪の根源はあんたなの」

『そーゆう言い方、傷付くなぁ』

「よく言うわよ。・・・あたしだって分かってるし、行くに決まってるけど。責任取ってちゃんとあたしの傍にいてよね?」

『そのつもりだから、安心しな宮子』

 涼しい声で遊佐が笑う。
 あたしはそれ聴いて。胸の真ん中がじんわり温かくなる。

 ほんとはね。傍にいて欲しいんじゃないの。
 あたしが遊佐のそばにいたいだけ。
 こうでもしなきゃ。理由をくっつけなきゃ居させてくれないんだから、あんたは。

 鼻の奥がつんとなって、ちょっと泣きそうになる。それを誤魔化すように、あたしはわざと偉そうに言う。

「ついでに、おじいちゃんのプレゼント選ぶのも付き合ってよね?」

『ハイハイ。お嬢の仰せのままに』

 肩を竦めながら、今度はクスリと笑ってそう。

「じゃあまた明後日にでも電話する。時間はそのときね」

『ん。・・・じゃあな、オヤスミ』

「おやすみ、遊佐」
 

 
 耳の奥に残る遊佐の声を、胸の中にふんわり抱きしめるように。その夜は眠った。