遊佐は今日、何かしたいコトあるかな?  
 季節も好いし、街中で買い物は無理でも公園でも山でも海でも。広くて人がまばらで車椅子が通れるトコなら、あたしの車で二人だけでも行ける。
 面倒臭がってテレビ観てゴロゴロしてるだけだって。あんたのカオ眺めてても見飽きないしね。

 背中に唇を押し当てて口付けた。
 それから遊佐を残し、隣りから抜け出て裸のまま洗面室に。奥のバスルームで先にシャワー浴びて、朝ゴハンでも用意しとこうかなって。

 遊佐の為に改装された離れのような造りのこの部屋には、車椅子でも楽に出入りできる広い洗面室、トイレ、大きなバスルームにミニキッチンまで付いてる。
 まあキッチンは最低限、お湯を沸かすのに使うぐらいの一口コンロと小っちゃな流し台、あとは電子レンジとミニ冷蔵庫だけだから。基本、ご飯は向こうのリビングで。
 
 頭からお湯を浴びバスチェアに座って髪を洗ってると。いきなりガシャン、とドアの開く音がして心臓が飛び上がった。

「遊佐?!」

 泡で目が開けられなくてこっちは余計に焦る。

「んー、オレも入るー」

 声だけ聴いてると、あんたまだ全然眠そーなんだけど?
 バスタブに自動でお湯を張る音声が流れたから、遊佐がスイッチ入れたんだろう。吹き出る飛沫の水音。
 急いでシャンプーを洗い流す。振り向いたらバスタブの縁に腰掛けた遊佐が大欠伸。してた。
 

 ぬるめのお湯に浸かりながら、遊佐の脚の間で後ろ抱きにされてる格好で。
背中から回ってる手があたしに悪戯を始めてる。我慢できずに漏れる声が反響して、自分じゃないみたい変なカンジになる。

「・・・・・・宮子、うえ乗って」

 あたしは体勢を入れ替えて向き合い、腰を落として遊佐と繋がる。
 自分で動いて遊佐をキモチよくしてあげる。
 遊佐があたしの腰に手を添えて、動きを加減したりもする。
 水の浮力を使って。効かない脚に負担がかからないように。

 だからベッドでは裸で抱き合ってキスして眠るだけ。

 だからって、足りないなんて思ったコトは一度だってない。

 躰を繋げて果てるまで確かめ合って。十分でしょう?

「みやこ・・・ッ」

 遊佐の切羽詰まった時の声がスキ。
 いいよ、何回でも。

 生々しい傷跡もぜんぶ晒して愛し合えるのはね。
 遊佐がそれを受け容れて。
 あたしが受け止められた証。 

 粉々に打ち砕かれた未来しか見えなかった、二年前のあたしとは違う。
 独りよがりに自分が遊佐の全部を背負う気でいた、一年前のあたしとも違う。 


 ねぇ遊佐。
 あたしには遊佐しかいないよ。どうやったって。
 だからね。

「・・・あたしと結婚して」

 今度は真っ直ぐに目を見て。絶対に逸らさない。
 
 遊佐は。一瞬、目を見張って。あたしをきゅっと抱き込むと。

「・・・・・・不意打ちはヤメテ」

 頭の上で小さく笑った気配がした。

「もっとよく考えてから言いな」

 すんなり言い切られてる割りに遊佐が惑ってる。気がした。
 顔が見たかったのに。・・・離してくれなかった。