昔っからダンディーで優しくて、男らしくって。何を隠そう、あたしが男にした初めての公開プロポーズは小学一年生の時。
 お父さんと変わらない歳の哲っちゃんに、『絶対にお嫁さんになる!』って。まあ愛しのダーリンにはその時もう、奥さんも子供もいたんだけどねぇ。

 今はね。それこそ親娘みたいな深い愛情で繋がってて。実の父親が言うより素直に聴くって、当の本人含め周知の事実っていう。
だから哲っちゃんが電話してきた。か、それとも遊佐の入れ知恵かも。

「あ、ねぇ哲っちゃん。あたし、普通の恰好で行くよ?」

『構いませんよ。お気になさらず』

 おばあちゃんも、哲っちゃんの奥さんの瑤子(ようこ)ママも、女の人は絶対みんな着物だからなぁ。

『当日は榊(さかき)を迎えにやります』

「大丈夫。一人で行けるってば」

『・・・・・・承知しました』

 哲っちゃんは、あたしが絶対に迎えは断るのを知ってても、毎回おなじやり取りを繰り返す。二年前と変わらず何も無かったみたいに。
 それは哲っちゃんの優しさなんだって分かってる。だから無理に押し付けもしない。少し寂しそうに笑うだけで。

「じゃあ、来週の金曜ね。おじいちゃん達に宜しく言っといて?」

『お伝えします。お嬢に会うのは私も楽しみですから。嬉しいですよ』

 丁寧なバリトンが耳元に響いて。相変わらずのイイ声にうっとりしながら通話を切った。
 
 髪を乾かしきってからリビングに戻り、ラグの上にすとんと腰を下ろすと。今度はあたしがスマホをタップしてコール。すぐに繋がった。

『宮子?』

 聴きなれたトーン。・・・うん。声聞くと安心する。やっぱり。  

「遊佐、家にいる? 電話、大丈夫?」

『ヘーキ。・・・どした?、一人寝が寂しくなった?』

「別に、違うけど」

 からかうみたいに言うから。ちょっとむくれ気味に口を尖らせた。
 見えないクセに笑い声が返る。 

『拗ねンなよ』

 同い年なのに、昔っからこっちを年下扱いする電話の相手は。
 哲っちゃんの二番目の息子で、まるで姉弟同然に育った、遊佐真(ゆさ・まこと)。向こうがどう思おうと、死ぬまで離れないってあたしが決めてる男。