国道から入って住宅地を抜け、畑なんかもチラホラある中に、時代劇に登場する武家屋敷ぽい白塗りの外塀が見えて来たら。それが目印。敷地1300坪の我が家。

 臼井の家は昔からこの一帯の大地主で。おじいちゃん世代のご近所さんからは、『一ツ橋のお館(やかた)さま』なんて呼ばれ方もする。
 いつ頃の話かは定かじゃないんだけど、ご先祖さまが近くの中瀬川に、私財を投じて領民の為に橋を架けてあげたんだとか。
 今はもう無いその橋の名前が由来になって、『一ツ橋組』を名乗るようになったのが戦後の話。ひいおじいちゃんが極道発祥の人。今の組長は三代目、お父さん。

 本家の他に、一ツ橋二の組、一ツ橋三の組って分家まである大手の組織に成長しちゃって、それなりに揉め事なんかも無くはない。
 いくらあたしが組を継ぐ気がないって公言したって一人娘には違いないし、何かに巻き込まれやしないかっておじいちゃん達が心配するのも、分かってはいるんだけどね。

 だから本家の次期組長は『若頭』の哲っちゃん。
 そのまま行けば。遊佐が若頭代理でいずれ組を継ぐハズだった。本人が頑なに固辞して、代理の席は今は空いたまま。・・・そう榊が言ってた。



 表門は警察もウチも厳戒態勢だろうから、通り過ぎて裏門に。
 分厚い鉄製の盾みたいな門の前で停車し、ライトをスモールに切り替える。すると脇の小さい通用門から一人現れて、運転席側に近付いてきた。
 ウィンドゥを下げると、哲っちゃんの部下?の葛西さんだった。

「お疲れさまです、宮子お嬢」

 礼儀正しく、両手を脇に揃えて頭を下げられる。
 お葬式みたいな黒のスーツで、髪もオールバック。たしかまだ三十半ばだった気がするけど、・・・老けて見えるなんて言えないよね。

「こんばんは葛西さん。もしかして中、入れない?」

 リアルタイムで監視カメラにチェックされてるから、いつもなら自動で扉が開くのを待つだけ。なのに、わざわざ葛西さんが出て来たのは。

「いえ。ちょっと車が多いもんで入れづらくなってまして。自分が入れときますんで、鍵をお預かりします」

 ああ、そういうコトね。

「分かりました。じゃあよろしくお願いします」

 笑顔で返して荷物を持ち、車を降りる。

「いま案内させますんで」

「ありがと」

 無線のインカムで葛西さんが呼び出した、知らない顔のお兄さんの後に続き、ずらっと並ぶ黒塗りの高級車の脇を歩いた。
 あちこちライトアップされて、総会より気合入ってんじゃないのコレ。
 きっとメイン会場は大盛り上がりだろうなぁ。内心、苦笑い。

 さてと。それじゃあたしも、気ぃ引き締めて行きますか!