「・・・・・・ずっと遊佐を一人にしてたんだね。ほんと・・・分かってなかった」

 結婚して。傍にいて支えてあげようって。自分ばっかり先を急いで。
 臼井の跡取りだってコトも、一ツ橋本家の一人娘だってコトも、遊佐にはなおざりに出来るワケがないのに。
 結局あたしを仁兄に託すなんて辛い決断をさせた。・・・遊佐だけを戦わせてた。

 ダメだ全然こんなのは。

 あたしはそっと躰を離すと、かがんでブーケを床に置く。
 そのまま膝をつくとドレスの裾が広がって、白い水溜まりのように。

「遊佐」

 少しだけあたしの目線が下。見上げて今度は両頬を手で包み込み、あたしに向かせた。

「・・・・・・ちゃんとやり直したいの、あんたと。家を継ぐことも、脚のことも、みんなに助けてもらって、もう遊佐だけに背負わせたりしない。あたしがあんたを見捨てるなんてそんな心配、絶対にさせない。一生かけて証明してあげるから・・・お願い。今じゃなくていいの、でもいつか。臼井宮子を遊佐真の妻にしてください」

 真っ直ぐに遊佐の目を見つめ。
 不思議なくらい穏やかな気持ちで、あたしは心から。想いの丈を込めて言った。

 遊佐は。海の底みたいに深い色の眼差しで。あたしを見つめ返してた。
 
 自分のココロはもう決まってて。遊佐の答えがたとえ何だったとしても。変わらないってそれだけ。
 最期まで。あたしは貫くだけ。

「・・・・・・やだよ」

 呟いた遊佐が大きく肩で息を吐いて。あたしの両手の上に自分の手を重ね、やんわり自分の頬から剥がした。

「・・・なんて言ったら、仁兄や榊に刺されんだろ」

 どことなく不敵な笑みを滲ませた遊佐。

「降参する。・・・宮子には負けた」

 やれやれって顔で困ったように。

「・・・え?」

 呆気にとられたみたいなあたしを悪戯っぽい笑顔が覗き込んだ。

「誓いのキスはしとかねーとだよな」

 あたしの両頬を包み込んだ遊佐の掌。
 寄せられた顔に、あたしは目を瞑る。優しく啄まれる唇。
 ワルツを踏むみたいな、・・・優しくて柔らかい遊佐のキス。

 二度と触れられないかもって。
 今こうしてるのが奇跡なんじゃないかって思うくらい。
 切なくて切なくて。
 涙が零れ落ちた。

 離れた唇が、あたしの目に溢れる涙を口付けては拭う。
 愛おしむように何度も何度も。

「・・・愛してる宮子」

 
 この日を。この声を。この愛を。
 あたしは一生忘れない。

 胸の奥底に深く刻み込んで。