『汝、木崎仁は臼井宮子を妻とし、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで愛し合うことをここに誓いますか?』

 向かい合った聖職者役の静穏なトーンが、マイクを通して清らかに流れてく。オルガン奏者が讃美歌の音色を小さく奏でながら、臨場感を盛り上げて。

「・・・はい。誓います」

 仁兄の静かな宣誓。
 神父さんがひと呼吸おいて、続けた。

『汝、臼井宮子は木崎仁を夫とし、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで愛し合うことをここに誓いますか?』


 心臓が。爆発するんじゃないかってぐらい。大きく脈打って。
 ブーケを握る両指にものすごい力が籠ってた。
 
 周りの音も声も。何も。あたしの耳には入らない。
 ただ。なにかの叫びが。天に向かって突き抜けてった。

「・・・・・・わたし、臼井宮子は。健やかなる時も病める時も」

 一瞬きつく目を閉じ、勇気と声を。全身全霊をかけて。振り絞る。

 遊佐に伝える為だけに。あたしはここにいる。
 
「遊佐真を夫とし、死が二人を分かつまで愛し抜くことを、ここに誓います・・・!」


 言い切った。
 もうこれで引き返せない。

 横に並んだ仁兄に躰ごと向き、深く頭を垂れる。

「・・・・・・ごめんなさい仁兄・・・っっ。仁兄とは結婚できません。あたしが誓いを立てる相手は遊佐しかいないの。遊佐以外の誰とも結婚はできない・・・!」

 この後どうなるとか。お父さん達の面子が丸潰れになるとか。色んなコトが嵐みたいに頭の中を渦巻いた。半分は。どうにでもなれって思った。
 
 仁兄はずっと黙ったまま何も応えてくれない。
 あたしは覚悟してゆるゆると顔を上げた。どんな冷たく罵られても。それだけの咎があたしにはある。
 こっちに向き直ってる仁兄の胸元が目に映り、やがて引き結ばれた口許が、そして。
 あたしを見据える眼差しとぶつかった。