緑に囲まれた、百人まで収容可能な聖堂風のチャペル。平日の午前中に空きがあったのと、隣りの市だったけど、実家から車で三十分ほどの距離だったことで即決した。
 式は十時から。今頃、続々と真っ黒い集団が白亜の教会に詰めかけてるハズ。担当のプランナーさんはさぞかし驚くだろうなぁ・・・・・・。

 フレンチスリーブでAラインのドレスは、ウエストから裾までが花の刺繍をあしらったレースで。でも華美すぎない清楚な雰囲気になってる。
 アップにした髪の上にはティアラ。お化粧も普段とは違うから、鏡に映った自分が全くの別人に思えた。


「宮子ちゃん、すっごく綺麗よ・・・!」

 教会に隣接するホール会場の控室で。黒留袖の瑤子ママは、気崩さないよう椅子に腰かけさせられたあたしに破顔して目を潤ませた。
 隣りの哲っちゃんも満足そうな表情で目を細めてた。

「琴子さんにも見せてあげたかったわ」

 今日の瑤子ママはいつにも増して涙もろい。

 おじいちゃんとおばあちゃんもさっきまでいて。号泣するおじいちゃんをおばあちゃんが諫めながら、来賓客を迎える為に先に教会に向かった。

『きちんと最後までやり遂げなさい』

 真っ直ぐにあたしを見据えたおばあちゃんは、そう言い残して。


「・・・・・・ママ。遊佐は?」

 視線を傾げると、ママは哲っちゃんと顔を見合わせて申し訳なさそうに目を伏せる。

「ごめんなさい宮子ちゃん。二人で話したらって言ったんだけど・・・・・・。あの子会わない・・・って」

「・・・そう」

 胸の奥がズキンと痛んだ。
 ユキちゃんに託した伝言は受け取ってくれなかった・・・?
 思わず顔が歪んで、泣きそうになるのを必死で堪えた。

「・・・・・・瑤子。お嬢と話がある。少し外せ」

 哲っちゃんが静かに言って、ママは控室を出て行く。

 紋付き袴姿で、いつもよりきちんと髪を後ろに撫でつけてるから、男っぽさが際立ってすごく凛凛しい。
 見下ろしたあたしに手を伸ばすと、頬に触れて愛おし気に見つめる。

「腹は決まったかい・・・?」 
 
 小さく頷くあたし。

「お嬢が幸せならそれでいい。大事な娘の門出だ、見届けさせてもらうよ。しっかりやりな」

「哲っちゃん・・・・・・」

「器用そうに見えて全く不器用な愚息どもだが、お嬢に何より惚れてる。そいつだけはこの俺が保証するよ」

 哲っちゃんは淡く笑んでおでこにキスを落とし。もう一度深く見つめた後、ゆっくりとドアの向こうに消えてった。

 まるであたしを見透かしてるみたいな。そんな気がした。