『で? まさかお兄さんにほだされて、大人しく結婚する気になったとか言う? そんなこと言うおバカさんとは縁切るわよ?』

 耳に当てたスマホの向こうから、大きく溜め息雑じりの声。
 お盆で里帰りはしてるものの予定が合わずに、今回は紗江と会うのは難しかった。
 空いた時間に電話を掛けてくれた親友は、あたしの話を聴くなり遠慮のないシビアな意見を披露してくれる。

「仁兄は仁兄だって再認識して、無理だって分かっちゃっただけだってば」

『当然でしょ』

 フンと荒い鼻息で。

『・・・遊佐クンだって辛くてしょうがないに決まってんのよ。宮子とお兄さんの結婚式だなんて』

 亞莉栖で泣いた遊佐。・・・・・・もしかして事故の時も、哲っちゃんや仁兄の前じゃ涙を見せたのかな。あたしだけが。真実(ほんとう)の遊佐を知らなかった? 今更のようで深く胸を抉られる。

『ねぇ宮子』

 紗江があらたまった口調で言った。

『言い方悪いけど、家の為だって言われたら遊佐クンは何も言えない立場でしょ。諦めるしかないじゃない。だったら宮子が諦めないしかないよ。ていうか諦めないでよ、遊佐クンの為にも・・・!』
 
「紗江・・・・・・」

『それだって、宮子にしか使えないたった一つの武器でしょっ?』



 まだ戦える。ユキちゃんが言った意味が、カタチになってこの手に舞い降りた。気がした。