それから仁兄は。とあるセレクトショップで、いつ着てくの?ってワンピースドレスを、フォーマルっぽいのとパーティっぽいのをあたしに試着させて、二着ともプレゼントしてくれた。
 素直に受け取れたのは、何かが少し吹っ切れる気がしたからかも知れない。



 モールを出て遠くに霞む摩天楼を背に走る車。規則正しく続くバックランプの帯。夜はセカイを一転させる。

 ずっと片手を繋いだまま、ハンドルを握ってる仁兄の。フロントガラスの向こうを真っ直ぐに見据えてる横顔は、よく知ってるハズなのに・・・知らない人のようにも見えた。

「・・・宮子」

「なに?」

 車の流れが緩やかになったり、進んだりを繰り返す。
 飽きもしないで、通りすがりの街の景色を眺めてたあたしは声に振り返った。

「・・・・・・俺はお前に惚れてる」

 唐突な告白に少し驚いて。でも黙ってそのまま。

「生まれた時から守ると決めてた女だからな。・・・真に惚れてるなら、見守ってやるのが役目だと思った」

 前を向いたまま遠くを見つめる眼差し。

「あの事故が無けりゃ、こうはならなかったんだろうが。・・・運命だ、諦めろ。真の分まで俺が愛してやる。あいつとの約束だからじゃねぇよ。この世で一番大事な女だ、・・・俺がそう決めてる」

 それが上辺だけの言葉かそうじゃないかぐらい。分からないハズもない。
 心臓がひしゃげて。眼差しが歪む。

「・・・・・・仁兄、あたしは」

「譲る気はない。それだけだ」

 撥ねつけるように低く言い切った仁兄は、言葉を継がせてくれなかった。 

 

 日付が変わる手前で、あたしのマンションに着くまで、二人のあいだに会話らしい会話もなく。
 車を降りる時、あたしがお礼を言うとようやくこっちを見て仁兄が口を開いた。

「宮子を向かせられないのは、俺が足りてねぇだけの話だ。お前が悪い訳じゃない、・・・気にするな」

 伸びてきた手があたしの頬に触れて、やんわりとなぞる。
 目を細めた顔が寄せられたのを、躰を竦ませて反射的に目をきゅっと瞑る。おでこに唇が押し当てられた感触があって、薄っすら目を開けると仁兄はもうシートに体勢を戻してた。
 
「また連絡する」

 部屋の前まであたしを送ると口角を上げて仄かに笑み、仁兄は帰って行った。



 あたしと。
 仁兄と。 
 遊佐と。
 それぞれのベクトルがそれぞれの方向にしか向かなくて。どうしても重なり合わない。

 貫いた先に何が待つの。
 ねぇ。これがあたし達の、運命なの?