ざわつく声。戸惑いと、訝しむ空気。不協和音にチャペルが包み込まれてくのを肌で感じながらもあたしは。見つめ合ったまま、仁兄から振り下ろされる刃を待ってた。

「・・・・・・宮子がそういう女だってのは分かっちゃいたがな」

 深い吐息。
 眉間に刻まれた厳しい気配に息を呑む。

 伸びてきた手が顎にかかった。されるがまま。 

「・・・一生お前の兄貴で我慢してやる。有り難く思えよ?」


 その刹那を。
 どう表現していいか分からない。
 張り詰めてたものが一気に緩んで、涙が勝手に溢れて落ちた。
 悲しいのか切ないのか、胸が詰まって言葉にならない。

「ッッ・・・、じん、にぃ・・・っっ」
 
「覚悟しろ。妹なら尚更、うんざりするほど溺愛するまでだ」

 あたしの目尻を指で拭うと、仁兄は不敵そうに口角を上げた。
 やんわり抱き締められて頭の天辺に口付けされる。 

 それから。

「まだ終わってねぇだろうが。・・・意地でも宮子の筋を通してみせろ」

 力強く囁いて。全員の注目が集まる中、背中に回した腕で、あたしを最前列の親族席に振り返らせた。
 バージンロードを挟んで右側席にお父さん、おじいちゃん、おばあちゃん。左側に哲っちゃん、瑤子ママ、・・・遊佐。
 そのとき初めて、あたしの目は遊佐を掴まえた。それまでずっと、見ないように見ないようにしてた。
 顔を見たら絶対泣く。弱くなって貫けなくなる、だから。

 黒の礼服に白いネクタイした遊佐は。あたしをじっと見つめてた。
 なにやってんのオマエ。・・・そんな顔。

 こんな時なのに。あんたの考えてるコト分かっちゃうんだよ、あたし。
 なんかちょっと笑えた。

 肩から余計な力が抜けて。気は引き締まった。
 遊佐から視線を外すと、皆に向かって深々と頭を下げる。すると、ざわつきが次第に止んでく。

 
「・・・お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、哲っちゃん、瑤子ママ。あたしの勝手で無駄にしちゃったこと・・・本当にごめんなさい。許してもらえるとは思ってません」

 ゆっくりと顔を上げ、お父さん達を見渡して心から謝罪を口にした。

「臼井の家と遊佐の為にどうするのが一番か。一度は自分で仁兄と結婚するって決めました。・・・でもどうしても。遊佐と一緒に生きるのを諦められない。これを譲ったらあたしは死んでも後悔する」

 腕組みをして瞑目したまま、微動だにしないお父さん。
 おじいちゃんもおばあちゃんも、難しい表情で黙ったまま。

「仁兄との結婚は白紙にさせてください。今のあたしに言えるのは・・・これからも遊佐の側で、臼井の家も一ツ橋組も仁兄も、支えて守ってみせるってそれだけです。その覚悟はあります。・・・遊佐となら」

 哲っちゃんと瑤子ママの方に向いて。続けた。

「・・・哲っちゃん、こんなやり方してごめんなさい」

「・・・・・・謝る必要はありませんよ。言ったでしょう、愚息どもの後始末を付けるのは、親の役目だと」

 哲っちゃんは目を細めて仄かに笑んだ。
 最初からあたしがこうするのを分かってたように。