仁兄は自分達向きじゃないショップ以外、立ち寄ってひととおり店内をを回る。
 アクセサリーでも靴でも、あたしが目を留めたのを察すると。

「宮子ならこっちの方が似合う」

 億劫な風でもなく感想を口にして。 

 イメージ的に、一緒に彼女の服を選ぶとかそういうのは一切しないタイプかと思ってたから。歩きながら思わず。

「・・・仁兄ってふつうにデートできるんだね」

 意外って顔に大きく書いたまま口を滑らせた。

「・・・・・・お前」

 こっちに顔を傾け、深緑色の縁眼鏡の奥からじろりと睨め付ける仁兄。

「その偏見どうにかしろ。女の扱いも出来ねぇ男に見られるのは心外だ」

「モテるのは分かってるけどさ。・・・もっとドライかと思ってた」

「・・・女によるのは当然だろう」

 そう言って繋いで絡めた手に力を籠めた。


 誰かと一日中ウィンドゥショッピングを楽しむのは、あたしも久しぶりだった。
 目当てが無いと、遊佐を誘うのはやっぱり無理させるし、車椅子で長時間は負担もかかる。出かけても最小限の時間で済ますようにしてた。
 それでも。遊佐と居られるのが嬉しくて。ささやかなシアワセだった。

 こんな風に手を繋いで誰かと歩くことも。・・・・・・二年ぶりなんだ。胸の奥が軋む。
 
 遊佐よりちょっと上背があって、見上げる角度も違う。掌の感触も、指の太さも、歩く速さも。

 ナンデ。遊佐ジャ、ナインダロウ。

 頭の中を乾いた音を立てて空回りし続ける。

 ゴハンを食べに行くのも、どこへ行くのも。何をするのも。
 もう。隣りに遊佐はいない。
 
 たとえ一緒に歩くことが出来なくたって。
 隣りにいてくれさえしたら。
 ずっと笑っててくれたら。

 それだけで良かった。
 遊佐が思うよりずっと。ナンにも欲しがってなんか無かったんだよ・・・。

 
 涙栓が緩みそうになるのを必死に堪え、紛らわすように色んなモノに目を向けながら。
 あたしのココロは、押し寄せる波に翻弄される一枚の葉のようにただ揺れ惑った。