車で来たあたしに、オレンジジュースのグラスを置いてくれたユキちゃんは、お父さんに呼ばれた日のことをありのまま話すとぽつりと呟く。

「・・・大姐さんも酷なこと言うのね」

 昔からいつも、おばあちゃんの一刺しが決め手になる。口を挟む余地がない真っ当な筋を、淀みなく通される。だから・・・何も言えなくなる。

「チヨちゃんはジン君と結婚したいの? 好きの意味が違うでしょ、ジン君は。抱かれる覚悟ある? おママゴトじゃ済まないのよ?」

「そんなの分かってる、あたしだって・・・っっ。でもっ」

「・・・マコトちゃんねぇ、ここに来て泣いたのよ」

 大きく目を見開いて絶句したあたしに、ユキちゃんは静かに続けた。 

「なんにも言わずにね、ぜんぶ押し殺すみたいに泣いて。・・・あの子のあんな姿、初めて見たわ。よっぽど苦しかったのね、ずいぶん滅茶苦茶な飲み方して。・・・あれ以来、顔見せてくれてないのよ」

 ねぇチヨちゃん、ってその声がどっか遠くから聴こえてる。

「マコトちゃん、きっとどん底よ。一番大事な宝物を差し出して、何にも無くなっちゃったから。それを取り返してあげられるのは、誰でもないチヨちゃん自身でしょ。・・・出来ないなんてあたしは思わないわ」

 儚そうな笑みを浮かべ、眼差しにだけ力強さをたたえてた。

「・・・まだ戦えるはずだよ、宮子お嬢。最後まで足掻ききったら、骨を拾ってやる」