一皿の量が少なめで、ピザやマリネなんかをシェアして色々な料理を楽しむ。
 トマトソース仕立ての海老とアボガドの冷製パスタは、ほど良い酸味でさっぱりしてたし、チーズリゾットも絶品だった。
 合間に仁兄にフルーツワインを勧められて、甘めで飲みやすいのを二杯だけ。
 元から強くもないし、店を出て車に戻った時には少し気怠さが回ってた。


「・・・俺のマンションで休んでいくか」

 眠気を誘う心地いい振動に身を任せ、シートに体を沈ませてたあたしに仁兄が言った。
 その意味も分かんないくらい酔ってはなかった。

「・・・・・・・・・大丈夫」

 目は閉じたまま、でもしっかりとそう答えたあたし。

「・・・宮子」

「ごめん仁兄」

 言いかけたのを遮って一気に吐き出す。

「分かってるけど。結婚するまで・・・待って。・・・おねがい」


 あたしと仁兄に躰の関係はまだ無い。・・・・・・避けてるのはあたしだ。
 こんな抵抗は意味なんかない。
 それでも。
 どうしても。

 あたしは。
 まだ。

 その瞬間まで。
 遊佐のものでいたい。

 残り僅か、たったそれまでの間でも。


「・・・式が終わったら、ちゃんと仁兄のものになるから。約束する・・・・・・」



 仁兄は何も言わなかった。
 そのままあたしのマンションに着いて、降りようとしたのを不意に腕を掴まれて振り向かされる。
 引き寄せられて重なっただけの唇。いったん離れた仁兄と間近で目が合う。

「・・・・・・ひと欠片も残さずに俺のものにしてやる。その時は黙って啼かされてろ」


 慈悲もない、冷ややかな眼差しに射貫かれて。
 それでいいって。思えた。
 否応なく奪われるほうが。夢を見ずにすむから。