本当はせめて年内まで仕事を続けるつもりでいた。それまで、あたしは今のマンションで別居して、週末婚でいいって思ってたぐらいだった。

 だけど仁兄は、本家に比較的近い場所に新居のマンションを見つけて、九月末には引っ越しが決まってた。当然あたしのマンションの解約手続きまで済んで。
 
『・・・宮子が働く必要はない。俺を待つあいだ、習い事でも好きにしたらいい』


 式の打ち合わせも全部、仁兄が仕切って。あたしはドレスを試着して、仁兄が選んで決めただけ。
 自分の結婚ていうより・・・ただの花嫁人形。
 ウエディングプランナーの担当女性の誉め言葉も何も、ひとつも頭に残ってない。言われるまま手足を動かして。愛想笑いを浮かべて。

 遊佐の隣りで着るハズだったウェディングドレス姿を。仁兄に見せてる自分自身すら他人事みたいで。沸く感傷も無かった。

 きっと。結婚するってことさえ。どこか目を逸らして現実を見てない。
 まともに直視したら、その瞬間にあたしは砕けて無くなる。自分を薄い膜で覆って、崩れかけの残骸を保つのが精いっぱい。



 ねぇ仁兄。

 “あたし”のほとんどは、遊佐で出来てた。

 息をしてるだけの人形(ぬけがら)に。何を詰め込んだら。

 元に戻れるんだろう。