「臼井ちゃん、寿退社するんだってねー! おめでとぉっ」

 朝礼前に有田さんが、満面の笑顔であたしの肩を叩く。先に報告しておいた宮沢部長がどうやら情報開示したらしい。
 
「いちおう九月いっぱいで辞めさせてもらうことになって・・・。すみません、突然で」

「まぁオメデタイことだしね、しょうがないわよ。で、式は?」

「今月の二十九日なんですけど、披露宴とか大袈裟なことはやらなくて。身内だけの式なんです」

 申し訳なさそうにあたしは言う。
 つまり会社の人は誰も呼ばないっていうのを暗に強調した。

 “身内”だけって言っても、杯を交わした身内の方が多いくらいで。式の参列者だけでも百人近いらしい。
 教会式にしたのはあたしの希望。着物は面倒だし、・・・遊佐の脚じゃ袴は大変だろうって・・・思ったし。
 披露宴も、一般人なら併設のホール会場で問題ないんだろうけど、招待客は幹部揃いでセキュリティ上の問題もある。
 結局、本家でやるのが一番リスクが低いって結論になったらしく、大急ぎで離れのゲストルームを増築リフォーム中だった。

「じゃあ部長に言って、みんなでお祝い会やったげないとね!」

「・・・ありがとうございます」

 無邪気な有田さんに、貼り付けた仮面の笑顔で。  

「ね、ね、ダンナさんどういう人?!」

 声は潜めても、悪気ない好奇心を丸出しの彼女。
 あたしは内心で大きな溜め息を逃し「・・・五つ上で、経営コンサルティング会社をやってます」と、当たり障りのない紹介をしたのだった。