金曜の夜を選んで紗江に電話したのは。リアクションをある程度想定して、落ち込んでも土日で立て直して月曜には仕事。・・・的な、自分なりの解析をしてみたからで。

 まさか、会うって言い出すとは思ってもなくて。物凄い形相でいる紗江を前に、ちょっと身の置き場がない心境だった。
 実家の両親に子供を預け、一泊するからとことん話を聴く、と、ドリンクバー付きのファミリーレストランで長期戦の構えだ。
 ランチにはちょっと遅い時間だけど、二人とも軽くパスタを食べ、テーブルにはそれぞれアイスティー入りのグラスが置かれてる。

「・・・とりあえず事情は分かったわよ」

 梅雨も明けそうで暑さが増すこれからの季節に合わせてか、明るめのカラーリングにしたショートボブの髪を指で耳にかけながら、紗江が溜め息を吐く。 

「あたしが言いたいのはね、そんなの後悔するに決まってるってこと!」

 きっぱり言い切って、あたしをコワイ顔で睨む。

「遊佐クンが頑固でしょうがないのも分かった。だからって、宮子がお兄さんと結婚するなんて有り得ないでしょ?! あたしは絶対に反対だから!」

 しょうがない。
 臼井宮子は血を繋げる為に存在しなくちゃ。

 あたしは。それ以上のコトを考えるのをもう止めた。

 おばあちゃんやお父さんが、遊佐の辛さを引き受けて、あたしと仁兄を結婚させるのも。愛情がゆえだって頭では理解してる。つもり。

 誰を憎んでも恨んでもない。
 絶望なんてとっくに通り越して、あとは意味の無い人生が終わるのをひたすら待てばいい。

 がらんどうのココロにまるで説法を流すみたいに。ただ言い聞かせて。

「宮子だってまだそんなに泣くくらい、遊佐クンが好きなクセに」

 少し困ったように笑んだ紗江にタオルハンカチを差し出されて、気が付いたら何筋も涙が頬を伝って落ちてた。

「・・・・・・っ、・・・ッッ・・・」

 やがて堪えきれずに、あたしはハンカチで目を押さえ嗚咽を殺した。
 
「いいよ、いっぱい泣きなよ。言ったでしょ、とことん付き合うって」


 紗江のサバサバした声が学生時代のあの頃に戻ったみたいで。
 人目も気にせずに思い切り泣いた。