『宮子? 久しぶりー元気?』

 耳許に聴こえる紗江の朗らかな声。

「・・・うん元気。ゴメン、忙しくなかった?」

 しばらくぶりだったし、声も聴きたくなって電話を掛けてみた。いちおう先にラインで、大丈夫かを確認してからなんだけど。

『ちょうどダンナが子供とお風呂入ってるし、大丈夫!』

「そっか」

『それより電話なんて、もしかしてイイ話?』

 案外そういうトコ、紗江は鋭い。向こう側から期待されてる感が漂ってきて。 
 長電話も出来ないだろうから、もったいぶらずに切り出した。

「・・・あたしさ、結婚すんの」

『やっぱり、とうとう?! おめでと~っ宮子ぉ! やっと遊佐クンがその気になったの?! いつ?、絶対行くから!』

「式はね八月二十九日」

『来月?! ずい分急じゃない! ・・・え、もしかしてデキちゃった?』

「デキてない、デキてない」

 あたしは苦笑い。

「気が変わらない内に、空いてるトコどこでもいいって思ってさ」

 すると紗江が声を立てて笑う。

『気が変わらない内って、遊佐クンの? 宮子らしいね』

「違うよ、あたしの」

『宮子の? なんで?』

 きょとんとして返った。

「相手は仁兄だから」

『はぁっ?!』

 一気に険のある高いトーンに跳ね上がった。

『何それ?! どういうこと、宮子!! ちゃんと説明しなさいよっっ』

 噛みつくように声を荒らげた紗江に、あたしは言葉を詰まらせる。
 黙り込んだのをどう受け止めたのか、苛ついた様子で早口にまくし立てる彼女。

『あーもうっ、何でそんなことになってんのよ?! 明日そっち行くから、一から全部話して!』

 あたしの言い分を一切聞かずに、時間と待ち合わせ場所を一方的に突き付けて、通話は切られたのだった。