そしたら。遊佐は一生あたしから離れられなかった。
 罪の意識でも。償いでも。

 どうしたって苦しませるだけなら。

 もっと傷だらけにしたってあたしは放さなかった・・・。
 愛だけって呼べなくても、その方がどんなに。 

 傍にいてもらえるなら。
 
「・・・脚なんかどうなったって・・・かまわなかったのに・・・・・・」

 
 涙雑じりに弱弱しく呟いた。その刹那。

「ッッ、・・・ッざけンな・・・ッ!!」

 突き刺すような鋭い怒声と、座卓に叩きつけられた遊佐の拳。
 音と声の大きさに躰が一瞬すくんだ。
 俯き加減の横顔は乱れた前髪に隠れて、鬼気迫る気配だけが痛いくらいに。

「・・・ナンでオマエがそれを言うんだよ・・・?」

 堪えるように声が震えてた。こんなに激昂する遊佐を初めて見た。
 あたしはただ呆然としてるだけだった。

「宮子はナンにも分かってねーんだよ・・・・・・、オレがどんな思いでずっとオマエを守ってきたかなんて、分かろうともしてねーんだろが・・・・・・」

 こっちを見ようともしないで遊佐は低く呻く。
 そして。

「・・・せいせいする。・・・・・・もう宮子のお守りなんかしなくて済むンだろ」 


 感情の消えた無機質な声だった。温度も何もない金属・・・みたいな。


 あたしの内側で。なにかが裂けて、破れる音がした。


 涙の代わりに、そこから流れ続けるナニか。


 痛いハズなのに麻痺したみたいに。何だかよく分からない。


 ああ。終わったんだ・・・って。

 
 それだけ。



「・・・宮子は俺と結婚する。それでいいな、真」

 仁兄の声が耳の中でたわんで聴こえた。
 遊佐が返事したのかさえ、あたしの耳には何も入って来なかった。

 


 もう。動けない。

 声も。

 
 息をしてるだけの臼井宮子の残骸。ここにいるのは。