実家に到着して。外に出た運転手さんがあたし側のドアに回った時。降りかけたのを、哲っちゃんが不意に呼び止めた。

「・・・俺はお嬢を愛してるよ」

 思わず振り返ると。穏やかで静かな眼差しが見つめてた。
 たったそれだけだったけど、深い愛情がひしと伝わってきて。あたしは哲っちゃんの首に腕を回し、肩口に顔を埋めた。

「・・・・・・ん。分かってる・・・」

 抱き締め返してくれた哲っちゃんが頭を撫でてくれる。大きな掌の温もりが優しく染みて、鼻の奥がツンとした。

 たとえば。願いが通じなくても。
 想いが噛み合わなくても。

 遊佐も。 
 仁兄も。
 お父さん達も、哲っちゃんも。
 あたしも。

 愛だから。
 譲れなくても。そこにただ在るのは。
 


 さっきまでざわついて波立ってた胸が次第に凪いでくる。
 
「・・・ありがと哲っちゃん」

 躰を離して微笑み返す。強がりじゃなく。





 足を踏み出す前に、大きく息を逃してお腹に力を籠めた。

「・・・宮子お嬢をお連れしました」

 哲っちゃんが閉まってる障子戸の向こうに声を掛けて。



 正真正銘、正念場だ。これが最後の。