翌朝の日曜日は、目が醒めた時には梅雨らしくシトシト雨が降りしきってた。
 夜のうちから降り出す予報だったから、部屋の空気も低い足許に湿っぽさが纏わりつく。
 灰色の空を窓越しに見上げるだけで、憂鬱な溜め息が漏れた。

 十時きっかり。マンション前に黒のセダンが停まり、傘を畳んであたしは後部シートに乗り込む。

「・・・おはようございます、宮子お嬢」

「おはよ」

 フリル袖のチュニックにクロップドパンツっていう、普段着のあたしとは対照的に、そこに乗ってた哲っちゃんはダークな三つ揃いで、“仕事”モードだった。

 いつもだったら遠慮なく飛びついてハグくらいしてる。今のあたしは薄い笑みを浮かべるのが精一杯。
 スモークガラスと弾く水玉で、車窓の外はいつにも増して不透明な鈍色の世界。目の前を通り過ぎてくだけで、頭と胸の中はざわざわと嫌な音で埋め尽くされてた。


 昨夜は相澤さんに送ってもらって部屋に戻り、あたしから哲っちゃんに電話するつもりだった。お父さん達の明日の予定を訊きたくて。

 仁兄が若頭代理に。きっとそれに合わせて、あたしとの結婚話を進めるハズだ、仁兄なら。
 お父さんやおばあちゃんがどう考えてるのか正直、計りかねてる。あたしと遊佐が今どうなってるか、知らないワケないのに何も言って来ない。あたし達の問題だから口を挟む気がないのか・・・それとも。 
 
 お父さん達の前で、自分の気持ちをぜんぶ吐き出して。それでもダメなら、その時はユキちゃんに骨を拾ってもらうから。相澤さんにも、あたしを慰める会の特別会員登録をお願いしようかな。
 断頭台の前に立ってるような、覚悟と開き直りが入り雑じった思いも掠めてた。

 でも早かったのは哲っちゃんの方。
 まるで見計らったみたいにスマホに着信があった時。予感があった。

『・・・お嬢、明日十時に迎えに上がります』

 もう理由は訊かなかった。


 哲っちゃんは何も云わない。
 顔を窓に背け、あたしも黙ったまま。