相澤さんが連れて来てくれたのは、倉科(くらしな)亭、と大振りな木彫りの看板が立つ、うなぎの割烹料亭だった。

「ここのうなぎは絶品なんですよ」

 見るからに敷居が高そうな京都の町家風の佇まい。くねくねと土間を進み、着物姿の案内係が通してくれたのは、障子窓から坪庭が覗く畳敷きの個室だった。
 正座かなと思ったら掘りごたつ式で、案外これも相澤さんの気遣いなのかも知れない。

 うなぎが焼き上がるまで時間がかかるそうだけど、どうやらコース料理らしく、食前酒と、数種類の和え物が彩りよく盛られた前菜が座卓の上にまず並んだ。
 
 こんな風に一対一で話すのも初めてだし、見れば見るほど相澤さんカッコイイし。・・・ああヤバイ、顔が。
 箸の使い方とか、いちいち所作がサマになってて、正直に極道の人にしては上品だって印象を持った。

「相澤さんて言葉遣いも丁寧だし品があるっていうか、・・・ぽくないですよね?」

 思ったまま感想を伝えると。

「・・・昔、織江にもそう言われましたが。お嬢さんに恥をかかせずに済んでいるなら何よりです」

 口の端に余裕ありげな笑みが浮かんでた。

 共通の話題ってなると織江さんや藤さんのコト、ウチの家族のコトで。
 あたしの他愛ない質問に相澤さんが卒なく答えてくれる形式で、お料理を堪能しつつ和やかに時間が過ぎて行く。

 おススメのふわふわ極上うなぎは、本当に焼き加減といい、これまで食べた中でも群を抜いて絶品だった。

 デザートのライチのシャーベットの最後の一口を舌の上で溶かし、スプーンを静かに置いて、あたしはおもむろに相澤さんを見やった。

「・・・少し訊いてもいいですか」