『大事に至らないそうよ』
『そっか、心配かけてごめんね』
『何、言ってるの。花菜が無事でよかった』
――本当に、無事?
お母さん、私、汚れてない?
*
「今日も部活? 夏休みなのに頑張るわね」
「新体制になったから、しばらくは頑張らないと」
合宿のあと、3年生は引退した。
そして新しい部長には、七海が選ばれた。適任だと思う。
責任感が強いし、いつもチームメイトのことを優先して考えてくれるし、率先力もある。そして何より私たち2年の中では、ずば抜けて上手い。
エース兼、部長。
きっと葉山先輩と同じタイプの部長になるだろうなぁ。
……葉山先輩。
お祭りの日、過去のトラウマを打ち明けた私に、先輩が呟いた言葉の意味は何だったのだろう。結局、聞けずに帰ってしまった。
先輩はあの時、何を思っていたのだろう。
「あ、電話」
朝ごはんを食べ終えて、制服に着替えよう立ち上がったとき、家の電話が鳴った。
うちの電話は登録してある番号から掛かってくると、その名前を読み上げてくれる機能がある。何も言わないときは、ほぼセールスだ。
お母さんはキッチンで忙しそうだし、私が出よう。
と手を伸ばした瞬間、お母さんに受話器を奪われた。
「もしもし、夕里ですが」
びっくりしたぁ。
お母さんが対応しながら、ジャスチャーで2階に行きなさいと合図する。
何よ、人がせっかく……。
そう思いながらリビングを出て、階段を登ろうとしたところで、
「いい加減にしてください、迷惑です!」
お母さんの怒鳴り声が聞こえた。



