そこに立っていたのは黒い覆面を被った男だった。


男の手にはパンと牛乳が持たれている。


あたしは壁に背中を押し付けるようにして、どうにか上半身を起こした。


「お金なら沢山あるよ。村杉グループの孫だから、あたしを誘拐したんでしょ?」


そう声をかけると、男はチラリとあたしへ視線を向けた。


しかし何も言わず、持って来た食べ物をテーブルに置くとそのまま部屋を出て行ってしまったのだった。