あれだけ愛しかった手に触れられているのに、寒気がした。


「どうして不幸にならなかったのか、教えてやろう」


蓮人はあたしに身長を合わせて屈みこみ、そう言った。


「《彼氏売買所》に売られた人間は、付き合っていた時の記憶を消され、新しい記憶を組み込まれるんだ。購入者となる相手との、幸せな記憶だ」


「いや……」


あたしは左右に首を振って訴えた。


誰の彼女になるかわからないなんて、絶対に嫌だった。


「大丈夫。今の辛い気持ちもすぐに消える」


蓮人がそう言うと、スーツの男があたしの服の袖を捲り上げて来た。


もう1人の男の手には注射器が握られている。