りせい君の理性が危うい瞬間






ズボンのポケットからお金を取り出す利生君は
トンっと私の胸元に、握りしめた札束を当てた。


心臓のドクドクと脈打つ音が札束を揺らしてるのか
夜風に煽られて札束がペラペラと揺れ動いてるのか。


どっちか分かんないけど。


深くプライドを傷つけられたような気がした。


そんなもので心が癒えるわけがない。



ーーーパシッ!!と私は利生君の手を勢いよく払った。



パラパラと舞って風と一緒に去っていく札束。


利生君は一瞬驚いた顔を見せたけど、また妖しく笑い始めた。



「...あんたのその悲しみ。お金じゃ買えないんだ?」


「当たり前でしょ?
何言ってんの、普通ちょっと考えれば分かることじゃん」


「分からないって言ってんじゃん。
あんたの悲しみなんか、俺は味わったことないんだから」


「だからって、お金でなんでも解決できるとは限らないでしょ!?」


「...?言ってることの意味がわからない。
金で解決出来ないことなんかあるわけないだろ?
金があればなんだって買える。」


「...」


「もちろん、あんたの心も...ね?」