りせい君の理性が危うい瞬間







そうだ。

普段の私なら、「私に約束すっぽかされたら怒るくせに。」って多分利生君に言い返してる。



だけど今日は違う。


言うことでもない……隠してるつもりだってないのに、なんだろうこれ。


利生君は鋭い目で、私のいつもとは違った日常へのちょっとした変化にさえすぐに気づく。




「……もしかして誰かと一緒だった?」


「ちがっ」


否定しようとした次の瞬間。


カチッ……と静かに、部屋の鍵をしめる利生君。



そしてゆらりと、力を抜いたその体で私の前に立つ。



「委員会の仕事で使ってる教室ってね、校舎裏よく見えるんだよ」


「ーーッ!?」


「戸田庄一郎。
 二年c組。出席番号1✕番。
 部活はサッカー部所属。
 好きな食べ物はオムライスで、嫌いな食べ物は漬物。
 父は公務員で母は専業主婦。弟が二人いてどちらも中学生。
 なに不自由なく生きてきて、のんびりとした家庭で育ってる。
 あっ最近彼女と別れたんだっけ?」



「なっ……」



スラスラとまるで教科書通りに言ってみせる利生君に、驚きのあまり言葉が出ない。



ゾクッとするどころじゃない。


怖い


いや……気持ち悪い。



深い関係じゃあるまいし、普通そこまで他人のことを知ろうとは思わない。



なのに、利生君は。



「こんな奴が羽子の好みなの?
 変なの。」



自分の歪んでいるその思考さえも
"普通"と言ってのける様に、違和感なしに相手のことを"読み上げた"。