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「今日もまた、羽子は俺に懐いてくれなかったね」
セミの鳴き声が聞こえなくなって、数時間が経つのに。
あの鳴き声がしつこく私の耳にまとわりついて離れないから、持っていた教科書を勢いよく閉じて正気に戻った。
「なんであんなこと、安藤さんに言ったの」
数時間前の教室での出来事。
利生君に“脇役“扱いされた時の安藤さんの顔...この世の終わりみたいな顔してた。
そりゃあそうだよね。だって、好きな人にそんなこと言われたら...振られたのと同じだもん。
まだ告白もしてないのに、自分の想いを完全に無視されたみたいで。被害者の私の方が泣きたくなってくるよ。
「なんで?だって本当のことじゃん。俺なにか悪いこと言った?」
「悪いことだらけだよ...っ!私の事もっといじめろ。とか、安藤さんのこと脇役扱いしたり...もっとちゃんと...人の気持ち考えなよ」
机に向かって、静かにお勉強。なんて。そんな気分でもないのに。
利生君の顔を見たくなくて、やけくそでノートに文字を書いていく。
そんな私を背後から見下ろす利生君はきっと今、頭の上でクエスチョンマークでも浮かべてるんだと思う。


