ポケットからハンカチを取り出し、濡れている私の頬に当て、利生君が丁寧に濡れている部分を拭いていく。
誰にも言えない。
私の視界にしか映っていない利生君の顔が、怒っているような笑っているような。
まるで楽しみにしていたモノが奪われたような、そんな残念そうな顔に私はーーひどく心がザワついた。
「羽子を徹底的にいじめてくれないと困るんだよね...。」
ふぅ、とため息を吐き、話を続ける利生君。
「安藤さんって、俺と羽子の愛を深めるために存在してるような、ただの脇役じゃん?
羽子が自分から俺に縋(すが)るくらい、精神的に追い詰めてくれないと、なんも楽しくないんだけど?」
ーーパサッと。私の濡れた顔を拭いたハンカチを、安藤さんの頭に乗せた利生君。
湿ったハンカチが、安藤さんの視界と心を絶望まで追い込む。
私を助けるために、こんな恐ろしいことを言っているんじゃない。
利生君は自分のためだけにすべて本音で話している。
私がいじめられれば、頼る人が利生君しかいなくなる。
利生君はどうやら私に甘えてほしいみたいだ。
その甘やかし方はとても...歪だった。


