「ーーーねえ、なに俺のこと勝手に殺しちゃってんの?」
心臓をその胸に刻んだまま落ちていったはずの利生君の声が、どこからか聞こえてくる。
最初は幻聴だと思った。
だって8階から落ちて死なない人なんかいないでしょ?
でも私は彼の身体能力を侮っていたみたいだ。
ふと靴先を一直線に目でなぞって、利生君が落ちていった屋上に存在する断崖絶壁の方に目を向けると。
5本の指が、コンクリートにしがみついていた。
そしてストッ...と。
彼は何事もなかったように、猫みたいに身軽な体で腕に力を入れ自力でコンクリートに足をつけこちらに戻ってきた。
「まさか人に殺されそうになる日がくるなんてね」
クスクス笑う利生君。
死んでしまいそうになったのに
こんな状況で笑えるなんて
彼はやっぱり...危ない人だ。
「ごめ...っ、わざとじゃ...」
「知ってる、だから許してあげる。
それにあんたに最初にイタズラしたのは俺の方だよ?
殺されたっておかしくないでしょ?」
「...」
「ちゃんと正当防衛出来てんじゃん。偉い偉い。」
「...もしかして私のことバカにしてる?」
「どうだろう。
あんた見てるとなーんか笑えてきちゃうんだよね」
「...」
「悲しみに浸ってるだけで、とくにこれといって行動には移さない。
これじゃあまるで、ただのお人形さんだね、生きてて楽しいの?」
「...っ」


