そう言って、ヘラヘラ笑う利生君は、教室に入り、私の席へ勝手に座った。
「ここに羽子が座って、ここから見える景色を当たり前の様に羽子の目が映してるって思うと。なんか興奮するね」
変なことを言いながら、何も聞こえやしないのに、机の上に置かれている開きっぱなしのノートに耳をくっつける利生君は。
私のノートをその綺麗な横顔でぐちゃぐちゃにした。
「もう利生君!ノートの上に顔置かないでよ...。てか、そんな事より国語の教科書だっけ?」
すぐ探すから、と。
その場にしゃがんで、机の横に掛けてあるカバンを漁っていると。
「利生君...!あのよかったらこれ。」
フワリと鼻をくすぐるいい匂いが、近づいてきたと思ったら。
昨日私を体育倉庫に閉じ込めた安藤さんが、何食わぬ顔で利生君に国語の教科書を差し出した。
「利生君困ってるみたいだし、その。光崎さんの教科書じゃ...多分授業受けられないから」
クスクスと笑いながら言う安藤さん。
その笑いの意味がやっと分かったのは、数秒後。
鞄の中から取り出した教科書が、黒の油性ペンで「うざい」だの「利生君に近づくな。この貧乏人」と、好き勝手に書かれてあって。
犯人は安藤さんしかいない。
そんなの分かっているはずなのに。言い返すことが出来なくて、冷や汗が私のおデコを濡らした。


