「どうしたの、羽子」
私の顔を眉を下げながら心配そうに覗いてくる利生君に。
「あの人...嫌い」と、男に聞こえないように蚊が飛ぶような小さな声で呟いた。
だって、私のこと人間扱いしてくれないんだもん。
初対面なのに、最低だ。
「うん、俺も嫌いだけど、俺の父さんだから。ほんとたまにこの家に帰ってきちゃうけど、我慢してね羽子」
そう言って利生君は、へらっと笑い、私の部屋のドアノブに手を伸ばした。
後味の悪さを残してパタンと閉まる、部屋のドア。
私はフカフカのベッドの上に下ろされた。
利生君の父親と聞いて、言いたい文句が口から出てこない。
利生君が親のこと嫌いでも、他人に親を貶されるのは不愉快だと思う。
だから俯きながら、ずっと黙っていたのに。
急に人が変わったように、利生君が震え始めるから、心配で声をかけようとしたら。


