耳元で囁いた悪魔は、さっさと“契約“の毒りんごをかじれと、私の手首を強く握った。
「高く買ってやるよ。
金じゃない、俺自身で羽子を買う」
「...っ!?」
「金で心が買えないのなら。
あんたの全部、かっさらうまでだ」
私の全部とは、きっと。 弱さで作られてるんだと思う...。
悔しかった。 自分自身の力でお母さんを救いたかった。
ーーたけど。
理解するには相当な時間が居るような相手が、私のヒーローだったなんて...。
「嫌いだよ...利生君なんか。 結局私、お金で買われちゃってるじゃん」
「そうかな?言ったじゃん。俺は俺自身で羽子を買うって。 羽子が俺を嫌おうが関係ないよ。 俺は羽子の心が奪えるなら何億だって使うつもりだから」
“欲しくなった“
それだけで、そんな事を平然と言ってのける利生君はどうかしてる。
「俺の同情はどんなものより高いんだよ?
だから、対価は羽子自身。
俺に従う気があるなら、俺の手にキスして」
「...キスしたら、どうなるの?」
「契約完了。 羽子はもう全部俺のもんだ。
俺に従い、俺に跪(ひざまず)き、俺に...全部委ねな」


