笠原と話すようになってから彼女は何かと僕に声をかけるようになった。
話す内容は実にどうでもいい話ばかり。
今日の朝ご飯だとか、今日見た夢の話だとか、本当にくだらない話。
雨の日は必ず彼女の家に行って一緒に登校している。
……訂正。
最初の一週間は雨が降れば一緒に帰っていた。
しかし最近は雨はもちろん、晴れていても曇ってても一緒に帰っている。
たまに学校へ行ったりもしている。
そんな日々。
「今日は晴れだって」
青い空の下二人、肩を並べて登校。
「今日は曇りだって」
どんよりとした灰色の空を見あげては「雨が降るといいね」と笑った。
雨の日は傘を差して楽しそうに笑って。
俺は部活があったけど、彼女は待ってくれていた。
教室で歌を歌っていたり、廊下でダンスの公演をしていたり、時間を潰して。
「笠原、帰ろう」
「うん」
彼女と過ごすようになって気づいたことがいくつかある。
一つは、彼女は僕の前でよく笑うようになった。
以前までは一人雨の下笑っていた。
だけど、僕の前では白い歯をのぞかせて笑ってくれる。
それがとてもうれしい。
彼女の笑顔が見れたことが心から嬉しい。
そして、もう一つ気づいたこと。
僕はクラスから孤立した。
それはそうだろう。
みんなから「変人」「キチガイ」「異常」と言われている彼女と一緒に登下校をしているのだから。
周りから変な目で見られるのは当たり前で。
最初は戸惑った。
友人に声をかけても無視をされるし、悪口も言われた。
ああ、そうか。
彼女はこんな世界で一人でいたのだと思い知らされて今までも自分の行動が恥ずかしくなった。
だからこそ、彼女の笑顔が僕の心の中に突き刺さる。
部活でも僕は腫物扱いだ。
誰も僕に近づこうとしない。
部活をやめようかとも考えたが、僕の中学は部活に入部するのは必須で嫌でもどこかに入部しなければならない。
退部したところで、どこかの部活に入らなければならないがだからと言って受け入れてくれる部はないだろう。
だから仕方なく今の部活にいるのだが、最近は専ら幽霊部員だ。
そういえば、笠原は何部なんだろうか。
彼女のもまた幽霊部員だろう。
ずっと教室にいるのだから。
給食の時にでも聞いてみようかと、四時間目の授業を聞きながら外を眺めた。
今日も空は雨模様。
だけど以前より雨は嫌いじゃなくなった。
「家庭科部だよ」
ご飯をほおばりながら彼女はニコニコと笑う。
週一でしか活動していないみたいでいてもいなくてもいいと言った。
つまり彼女は幽霊部員。
「宮下君は確かバスケ部だよね」
「そう。でも最近は行ってないよ」
「どうして?」
「んー……」
腫物扱いされてる、なんて言えない。
前まではそんなことなかった。
そんなことなかったのに。
チームメイトだと、仲間だと思っていたのに……。
「私のせい、だねきっと」
「そ、そんなことない。僕の意思だ。笠原が悪いわけじゃない。それに……」
「それに……?」
「ううん、なんでもない」
喉から出そうになる気持ちをぐっと抑えた。
本当の気持ちを言ってしまうことが恥ずかしかった。
素直になれないでいた。
この時、ちゃんと言葉にしていればよかったと、そう思う。
雨は放課後までずっと降っていた。
一つの傘に、肩を並べる。
これが、僕達二人の「普通」
「赤色タイル発見!!」
笠原の声が僕の耳に響く。
その合図で赤色のタイルを踏むだけのゲームが始まる。
毎日の日課になりつつある。
飽きるなんてことはなかった。
楽しい。
彼女と一緒にいることが。
クラスの中にいるより、バスケをしている時より。
何倍も何十倍も。
充実感が僕の中に入り込んでくる。
腫物扱いがなんだ。
誰もちかづいてこないし話しかけても来ない。
それでいい。
僕たちの世界に他人は入り込んでほしくない。
彼女と僕だけの二人だけの世界。
それだけで十分だった。
この気持ちを彼女に伝えたら彼女はどんな顔をするだろうか。
迷惑するだろうか。
自分で勝手に作り出した世界に彼女を巻き込んで。
きっと彼女は本当はみんなと仲良くしたいはず。
女の子同士で買い物だって行きたいだろうし、恋の話だってしたいはずなんだ。
僕だからわかる。
彼女をずっと見てきた僕だけは。
だけどそれを僕は望まない。
自分勝手な利己的な感情。
それを彼女をに知られたくない僕は卑怯でわがままなのだろう。
傘を放り投げて雨の中二人でくるくると回って踊って走る。
街灯の下、マンホールの上。
息を切らした二つの笑い声が響く。
だけど小さな円に二人は乗れなくて体格的に小さい笠原がバランスを崩す。
スローモーションのようにゆっくりと体を傾ける体。
その腕を咄嗟にひいて、自分の方へ抱き寄せた。
自然と笠原を抱きしめる形になって、僕は一気に顔に血が上った。
思ったよりも小さくて、思ったよりも柔らかい体に笠原は女の子なんだってことが急に意識されてしまったから。
「ご、ごめん!!」
「なんで謝るの?」
「え、っと……それは」
言葉を濁す僕。
確かになんで謝っているんだろう。
別に悪いことしてないのに。
だけど、なんか、謝らないといけない気がするのもどうしてだろう。
すると、隣でくすくすと笑う声が聞こえて「どうしたの」と聞いた。
