「ちょっと深いところ行ってみるか!」
「ひまり、大丈夫?」

正直、深いところは少し怖かったけど、浮き輪があるから大丈夫だろうと足の届かないところまで行った。

「やっぱ楽しいなあ!」

二人が楽しそうにはしゃぐのを、私は浮き輪を頼りに浮かびながら見ていた。

そう。私は浮き輪を頼りにしすぎた。

急に浮き輪が飛んだ。
鮮やかな黄色い浮き輪が空の青と重なって、太陽の光に反射した。

太陽みたいだと、呑気に思ったのも束の間、私は海の中へと吸い込まれていく。

下に体重をかけすぎたんだと考えながら、腕をバタバタさせる。
こういう時は冷静に浮かべと教わったけど、実際そんなことはできないということを知った。

すぐに気づいた大成くんが私に腕を伸ばした。真っ直ぐに伸びる日焼けした腕。こんな時に、かっこいいなあと感じた。

こんな小さいうち
に死ぬのかな、と思った。

「ひまり!手!手を伸ばせ!」

大成くんが叫んでる。
私もできる限り腕を伸ばす。

顔の上に海水が乗った。
思わず飲み込んでしまい、咳き込み、目も開けられない。

そんな私の腕を、大成くんが掴んだ。

気づいた時には、大成くんが自分の浮き輪の上に私を乗せて、心配そうな顔をしていた。

咳が止まらなかった。
口の中がしょっぱかった。

大成くんの顔を見て、涙がでてきた。もう、涙か海水か分からなかったけど、飲み込んだ味はさっきほどしょっぱくはなかった。

大成くんの背中越しに私の浮き輪を持っている京くんがいた。

私が溺れた時に、瞬時に二人は別れた。
私を助けるのか、浮き輪を取りに行くか。

この二人はきっと世界一のバッテリーだ。
少なとも、私にとっては。

浜辺に戻った私を母は泣きながら抱きしめた。上からいろんな声をかけられたけど、私の頭からは大成くんが離れなかった。

あんなに輝いている人なんているんだと、大成くんのことばかり考えるようになっていた。