己をよく知る武藤は言うなら便利屋である。キャッチャーをやれと言われたら最低限の事はできる。

これも自分が試合に出る為に複数のポジションが出来るように自ら監督に志願して色んなポジションの練習をしているのである。

その武藤がキャッチャーとしてマスクを被って投球練習をする。

「おらァ!何でも良いからこいやァ!」

「吠えんなってっ・・・!」

アカツキはそう呟き振りかぶって投げる。

フォームは楽天で活躍した岩隈・・・いまメジャーに行っている選手によく似ている投げ方だ。

そのプロ野球選手に似ているフォームから放たれるストレートがエグい。

バシーンという音が武藤のミットから聞こえる。

おそらく140キロは出ていたであろう。そのストレートはまさに剛球である。

鳥取県内で1年で140を越える速球を投げるのは恐らくアカツキだけである。

県内有数の速球派であるアカツキはそのストレートを投げても満足な顔をしなかった。

「やっぱエグいわ・・・」

武藤は冷や汗をかく。アカツキのストレートは手元でよく伸びる。そして、キレもあるから普通の140キロ以上に早く感じるのだ。

「駄目だっ・・・!高いっ・・・!」

少しコントロールが甘く高めに入ったのを反省しながら二球目を投げる。