飴舐めたいならそう言えばいいのに。
ポケットの中の飴を差し出さなかったこと、後悔してる。


自分の口の中に自分じゃない誰かの舌が入ってくるなんて。
想像できなかったけど。
そういうことになったらなったで、いっぱいいっぱいでよく覚えていない。


本当、先輩って。
ムカつく。


目を閉じれば先輩の憎たらしい顔が浮かんでくる。
あれから全然会う機会がないから文句の一つも言えてない。
あったら言ってやるのに、ばーかって。


閉じていた目を開けようとする。
その時、上から手が降ってきて私の目を覆い隠した。


「ちょっ、なに!?」


「静かに。」


この声、この匂い。


「……先輩?」


「正解、よく分かったね広瀬。」


先輩の手に目を覆われて視界が奪われる。
真っ暗な視界の中、先輩の声がより研ぎ澄まされて聞こえる。


「手、どかしてください。」


「とりあえず、そのまま聞いてほしい。」


手を退かす事もせず、先輩は淡々と話し始める。
手は暖かくて、いつもの先輩の石鹸の匂い。
何日振りかの先輩。
姿を、みたい。