ひゅるひゅると、風が鳴いた。

サツキ
明らかに皐月に吹くはずのない冷たさだった。



「……っ決して!

妾を貴様にくれてはやらぬぞ……!」



吹雪が荒れる中、

雪に紛れるほど真っ白な姿の女は空に向かって叫んだ。

その血走った眼と血の滲んだ唇だけが、

紅く、赤く、朱く、見える。


アコ
「……鬼ごっこは、楽しいかい吾子や……

しかし子供の相手は、老体の私には疲れてしまったぞ

……そろそろ、終わり時とは思わないかい?」



女よりもいくばくか遅れて、


分厚い雲に覆われた荒れ狂う空に、


時代にそわぬ狩衣の姿の男が追いつく。


というより、男はあえて焦らすようにゆっくりと


女に迫った。


「……っ外道が!」


叫ぶ彼女の体が、ぐらりと揺れる。


真っ赤な血が口から吹き出た。



「吾子や……







……口の利き方から調教し直さなくては


ならぬのかえ?」



男の瞳が妖しげに彩る。














「……っ荒れよ……吹雪っ……

マレビト
招かれざる客人から……妾を……隠しておくれ……」





白に紛れた赤すら見えぬほど、雪は勢いを増した。

あっという間にその姿はまぎれ、

男の瞳には雪しか映らなくなった。



しかし、その眼は妖しげな色に灯されたまま、


一点を追い続けていた。




「隠れんぼも、鬼ごっこも、そなたは好きであったな。




だが、吾子や……



そなたが私に勝てたことは1回もなかろう?」







雪が全てを覆った。







”時が来れば、迎えに行こう










それまで、待っているが良い”