『というわけなんですよ!沼口先輩!』
『なるほど…』
『で、協力してもらえますか?』
『う……』
『瑠璃垣に入部してほしいんじゃないんですか!?』
『そ、それは……!』
『じゃあお願いしますね!』
『う…わ、分かった…』
『オレは同級生をなんとかしますから!』
『ゆうちゃん!ボクはゆうちゃんが一緒じゃないと入らないよ!』
『わーってるよ!行くぞ!』

オレの作戦は瑠璃垣をエサに沼口先輩を動かし、野球部の交際禁止反対の署名を集めることだった。
過半数以上の票が集まれば龍泉寺先輩も考え直してくれるだろう。

同級生の署名は驚くほどあっさり集めることが出来た。
どうやらみんな不満に思っていたようだった。

上級生たちを説得した沼口先輩は大変だったと言っていたが思っていたよりもたくさん集めてくれていた。
先輩の可愛さに目をつけていたオレの作戦勝ちだな!

『さて、いざ決戦へ向かうとするか!』
『おー!』

放課後龍泉寺先輩に時間をもらい野球部の部室で話をさせてもらうことになった。
今日は部活が休みなので他の部員たちは誰もいない。

『話ってなんだ?』
『あ!ちーっす!』
『おう』

龍泉寺先輩の圧倒的なオーラに怯みまくるオレの背中を瑠璃垣がポンと優しく叩く。

『あ、あの!』

弾かれたように捲し立てる。
交際禁止反対の署名を集めてきたこと。
瑠璃垣は交際禁止が無くならないと野球部には入部しないということを告げる。

龍泉寺先輩は署名を見ながら黙りこむ。
お、怒ったのだろうか。

『………』
『あ…その……』
『…そうか』
『…え…?』

もしかして分かってくれたんだろうか。

『こんなにみんな反対なんだな…』
『そ、そそそうです!』
『でも駄目だ』
『へ?』
『甲子園に行くまでは禁止を解く訳にはいかない』
『ど、どうしてですか…!?』
『部活に集中してほしいからだ』
『こんなにみんな反対してるのに…!』
『交際をすることで部活動に身が入らなくなったらどうする』
『そ、それは……』
『今はみんなに真剣に野球に向き合ってほしいんだ。今、この瞬間この仲間達と甲子園を目指せるのは人生でたった一度きりだ。後悔したくない。させたくない。だから交際禁止を解くことは出来ないんだ。もし野球よりも交際を選ぶヤツがいるならそれはそれでソイツの人生だ。部活を辞めればいい』
『……で、でも…!』
『瑠璃垣が入部しないのは残念だが仕方ないな』
『……』

返す言葉が見つからなかった。
龍泉寺先輩の野球にかけるアツい想いは痛いほど伝わってきたからだ。