『あ、瑠璃垣さん!用事って……あ、あの、なにかあったんですか?』
『またお前の差し金か!』
『ボクってばやり手でしょ!』

異様な空気を感じ取った橋本さんが戸惑っていた。

『あ~!この間の野球の時はどうも~』
『あ、あの時の!こんにちは』
『うふふ~、橋本さんはかずくんの幼馴染なんですよね?』
『あ、はい…まぁ…』

堀越さんはにっこにこの笑顔で橋本さんに近付いていく。

『あのね、かずくんが橋本さんのこと好きなんだって~』
『な……!おい麻美!』
『えっ……!』
『麻美知ってるよ~、だって何年もずっとかずくんのご近所やってるんだから~!』
『なに勝手なこと言って…!』
『昔、かずくんと橋本さんが遊んでるのよく見かけてたもん。近所の男の子たちにからかわれても「一緒に居たいヤツと一緒に居てなにが悪いんだ!」って~』
『麻美!いい加減に…!』
『中学生になったらぱったり二人で遊ばなくなったね。それにかずくん雰囲気が全然変わっちゃって。誰とも関わらないようになって~』
『……』
『約束のせいでしよ?』
『お前、なに言って…!』

突然の瑠璃垣の言葉に西野は珍しく取り乱し、激しく動揺しているようだった。
橋本さんは黙って話に聞き入っている。

『公園で「ずっと一緒に居ようね」って約束したでしょ』
『………』
『かーくんは、その約束が破られたのがショックだったんだよね』
『……!』
『橋本ちゃんがなんにも言わずに中学受験しちゃって離ればなれになったから』
『で、でも!卒業式の日、卒業してもまた会おうねって約束したよね?』
『……』
『私は何度も会おうとしたけど、かーくんは会ってくれなかった……!』
『なんとなく分かるよ、西野の気持ち』
『え…?』
『小学生くらいの時って学校が世界の全てみたいな感覚あっただろ?』
『……』
『中学が離ればなれになるってなんでかもう一生のお別れみたいな気持ちになるもんなんだよな。オレも仲良かったヤツが中学受験しちゃってスゴい悲しかったの覚えてるもん』
『………』
『橋本さんはそんなつもり無かったと思うけど、ああいう純粋な時期に初めての裏切りみたいなのって結構しんどいんだよな』
『……お前と一緒にするな』
『そうだな。そんでその後麻美ちゃんとのことがあってなおのこと橋本さんは忘れなきゃってなったんだよな』
『……分かったような口を聞くな!』
『ん~………!もう!かずくんの天の邪鬼!いい加減にしなよ~!目を覚ませ~!』

ぺちん

堀越さんが右手で西野の頬を打ち可愛らしい音をたてる。

『かずくんは橋本さんが好き!橋本さんもかずくんが好き!じゃあ一緒に居ればいいじゃん!これからずっと一緒に居ればいいじゃん!』

お、男らしい…!
誰よりも堀越さんが一番男らしいかもしれない。