『蛇沢さんって好きな人とかいます?』
『へ?す、好きな人!?』

蛇沢さんの顔がみるみる朱に染まっていく。
こんなに分りやすい人は見たことがない。

『いるんですね』
『あ、いや、好きっていうか…ちょっと気になるっていうか』
『どんな人なんです?』
『ぜ、全然喋ったことなくって…』
『え』
『え?』
『あ、いえ』

麻実ちゃんじゃないのかよ!
モジモジしやがって。

カラン
カフェの扉が開きお客さんが入ってきた。

『…あ』

蛇沢さんのほんのり赤かった顔が一気に茹でダコ状態になった。
入口には長身の優男が女の子を二人侍らせながら入ってきた。

この様子だと蛇沢さんはあの派手な方かカジュアルな方かどっちかの子が好きなんだろうな。
それにしてもあの優男、女の子を二人も連れて歩きやがって。


カフェラテをグビグビ飲んでいると3人組の会話が耳に飛び込んできた。
ウチの学校の名前が聞こえてきたからだ。
今度の野球部の試合を観に行くらしいのだがその対戦相手がどうやらウチの学校みたいだった。

『野球部の試合があるんですね』
『そうみたいですね』

蛇沢さんにも3人の会話が聞こえていたみたいで、というか聞き耳を立てていたんだろうな。

『会場、逢坂くんの学校ですよね?』
『確か今度の試合はそうだったと思いますよ』
『へ、へぇ』
『……』
『そうなんですね…!』
『………来ます?』
『い、いいんですか!?』
『行きたいんですよね』
『あ…はは…』

これは蛇沢さんの初恋の種の協力になってしまっているかもしれない。
当初の目的とは全然関係なくなっちゃった。