『あ、お構い無く~』
『うふふ、息子がもう一人増えたみたいでうれしいわぁ』

朝起きると瑠璃垣がリビングで朝食を食べていた。

『なんでいんだよ!?』
『あら!なんてこというの?瑠璃垣くん、しばらくうちで下宿するって言ってたじゃない』
『初耳だよ!!』
『いいからさっさとご飯食べちゃいなさい、今日出掛けるんでしょ?』
『へ?』
『瑠璃垣くんから聞いてるわよ』

瑠璃垣をジロリと睨む。
気にした様子もなく美味しそうに朝食をモリモリ食べていた。
急激に不思議な力を使ってきやがったなコイツ…
説明のつかないことはおそらく魔法のようなものなんだろうなと納得することにした。


『で?これは一体どういうことだ』
『やーん、ゆう子ちゃんきゃわいい~』
『っざけんな』

振りかぶった拳を瑠璃垣にヒラリと交わされ余計にストレスが溜まった。
二人で女装している訳なんだけども、いくらオレが小柄な方とはいえ168㌢あるし瑠璃垣に至っては177㌢もある。

『このかっこで行けば堀越ちゃんも怖くないでしょ?』
『いや無理があるだろ!!』
『大丈夫、大丈夫!ゆう子ちゃん可愛いわよ』
『嬉しくないわい!』

瑠璃垣に押しきられ、このまま西野のバイト先に連れていかれることになった。

『え……うそでしょ…』
『ん?』

振り替えると伊藤さんが立っていた。
完全に困惑した顔をしている。

『げ!』
『ゆ、結人…くん……だ、よね』
『いや、これは、その、違うんだ!』
『あ、いや、私べつに何も見てないから…!』
『いやいやいや、ね!伊藤さん、違うんだ!』
『いやちょっと…!』

慌てすぎたオレはなぜか伊藤さんを逃がすまいとグイグイに引っ張ってカフェに連れ込んでしまった。

『いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ』

オレより少し背の高い、細身のイケメン店員さんが声をかけてくれた。
カフェを見回すと西野の姿は無かったが堀越さんが奥の席で本を読んでいた。
る、瑠璃垣おそるべし!
ほんとに堀越さんが居るなんて。

『あ、麻実ちゃん…?』
『え!』

伊藤さんが堀越さんに近づいていく。

『やっぱり麻実ちゃんだ!』
『あ、佳菜ちゃん!こんにちは~』
『待ち合わせ?』
『ううん、一人で珈琲飲みに来ただけだよ~』
『そうなんだ』
『あ…』

堀越さんは伊藤さんの後ろにいるオレらの方を見ると少し怯えたような顔をした気がした。
全然女装の効果ないじゃねーか。

『あ、この人は私の彼氏の友達で』
『ゆう子と瑠璃でぇす』
『!』
『あ…堀越麻実です』

伊藤さんは完全に不審者を見る目を向けてきたが、堀越さんは控え目だが普通に喋ってくれた。

『せっかくだからぁ、ちょっとご一緒してもいいかしらぁん』
『あ、どうぞ~』

瑠璃垣の裏声は気持ち悪いが、堀越さんと一緒に着席するチャンスを作ったのはナイスとしか言いようがなかった。