西野の頑なさに不安を抱きつつ歩いていると

『あぶないっ!』

驚いて立ち止まると声の方をとっさに見た。
瞬間、顔面に強烈な痛みが走る。

『うっわー!漫画みてー!』
『危ないって言ってんのになんで立ち止まるかなぁ』
『悪い。大丈夫か?』
『うぅ…』

上級生らしき男の人たちがわらわらとオレの周りに集まってきた。
バカっぽい声のなかにキリッとしたいかにもキャプテンなんだろうなって声が謝ってきた。
いぶし銀な声に恐怖を覚え痛みをこらえてなんとか顔を上げる。

『だ、だいじょぶ…っす』
『あ、鼻血』
『痛そー』

ガバッ
勢いよく体が宙に浮く。

『へ…?』
『保健室に連れていく』
『あ…いや…歩けま』
『黙ってろ』
『はい』

顔を見ると声のイメージそのままのガタイの良い強面で全く逆らう事が出来そうになかった。
先輩に背中と足に腕をまわされいわゆるお姫様だっこ状態運ばれていく。
もしオレが女の子だったらまさに少女漫画の胸キュンシチュエーションそのものだろう。
顔から火が出るんじゃないかっていう恥ずかしさに唯一の抵抗として両手で顔面を覆うのが精一杯だった。

『ついたぞ』
『あ、ありがとうございます』

壊れ物を扱うように優しく長椅子の上におろされる。
見た目に反して優しいのかもしれない。

『ひっ』

小さく悲鳴が聞こえたが先輩は気にした様子もなくティッシュペーパーを渡してくる。

『あ、すんません』
『先生を呼んでくる』
『は、はい』

保健の先生は不在だったようで先輩が探しに行ってくれるようだ。
といってもただ鼻血が出ただけなので、わざわざ先生を呼ぶほどでもないと思うのだが。
勝手に戻るのも後でボッコボコにされたら怖いので大人しく一人で待っているオレ。

いや、一人ではなかった。
隅の方にこちらを怖々と伺っている女生徒がいる。
強面の先輩に連れられてきたから怯えさせてしまったんだろうか。
なんとも申し訳ない気持ちになる。

『あ、あの、なんかすんません』
『!』

女の子はビクッとすると口をパクパクさせた。
なにか少し様子がおかしいので心配になる。

『だ、大丈夫?』
『あ…』

オレが少し近づくとうつ向いていた顔を上げ目を見開いた。

『あれ?西野の…?』
『か、かず…くん…?』

カフェで見かけた時とは雰囲気が違っていて気がつくのが遅くなってしまったが、このふわふわとした髪型は見覚えがあった。
彼女も西野を知っているようだし、あの時あそこにいた子で間違いなさそうだ。

そうだ。西野が生涯がどうとか言ってたのはこの子のことなんじゃないだろうか。

『あ、あのさ!ちょっと聞きたいことが』
『……!……ないで…』
『へ?』
『こないで……!』
『あ、あの…』
『お、お願いします…!』

様子がおかしい。
彼女の呼吸がどんどん荒くなり、すごく苦しそうだった。