『いやぁ、なんかいい感じだねぇ』
『そうだな』

二人の様子を遠くから眺めるオレたち。
大輔のピンチに気がついたオレはどうしようか考えている間に伊藤さんに先を越されてしまったのだ。
っていうかむしろそれが幸いにも二人の仲を急速に縮めたように感じた。

『ここはさ、ゆうちゃん』
『ん?』
『このままバックレちゃった方がいいんじゃないの?』
『は?』
『空気を読みなさいよ』

大輔と伊藤さんにまるでスポットライトが当たっているかのような、二人だけ別世界の住人になってしまっているかのような、あそこだけ明らかにオレたちのいる空間とは違う空気が流れていた。

『そうだな、ドタキャンメールでもして帰るか』
『良かった良かった!これで5円玉2枚分のゆうちゃんの願いが叶ったね』
『は?』
『初恋が2つ実りそうでしょ』
『2つ?』
『そ』
『1つだろ?』
『ううん、2つだよ、伊藤ちゃんと大輔の』
『いやいや大輔の初恋は橋本さんだろ?』
『チッチッチ。全くゆうちゃんはほんとにニブチンだなぁ』
『ああ?んだと』
『大輔は橋本さんに恋してた訳じゃないの』
『いやしてただろ』
『多感な時期だからね、おっぱいに興味津々で性的な興味と恋を勘違いしてたんだよ。男は下半身と脳は別の生き物だからね』
『は?』
『まぁ、ゆうちゃんにはまだ難しいかなぁ』
『子供扱いすんな!』
『とにかく、大輔はたった今初恋を自覚したんだよ』
『今!?』
『そ。恋しちゃったのよ、伊藤ちゃんの笑顔にね』
『ふーん』
『いやぁ良かった良かった!残りのご縁はあと8つだよ』
『へ?』
『ゆうちゃんが入れた5円玉10枚だったでしょ?』
『は!?え、待って!なんでオレ以外のご縁で使ってんだよ!』
『そりゃあ、初恋が実りますようにってお願いするからぁ』
『それでどうして!』
『ボクはゆうちゃんの周りの運命の初恋の種を引き寄せご縁を作ってるんだ』
『ほ、ほほう?』
『ボクが引き寄せなければ一生すれ違ったままだったかもしれない運命の相手だよ。初恋って言うのは実りにくいのが常だからね。そのご縁を結ぶも結ばないもゆうちゃん次第なわけ』
『でも結局オレ以外の縁が結ばれたじゃないか!』
『それはゆうちゃんの1番身近な初恋の種が、ゆうちゃんの運命の初恋の種じゃ無かったってことだね』
『ややこしいな!』
『例えばゆうちゃんが、オレの初恋が実りますようにってお願いしてくれてればピンポイントでゆうちゃんの運命の初恋の種のお相手を引き寄せることが出来たんだよ』
『そ、それってつまり…』
『ゆうちゃんがふわっと初恋が実りますようにってお願いするから、ゆうちゃんの身近な運命の初恋の種たちを引き寄せることしかできないんだ』
『なん…だと…!?』
『まあ、片っ端から運命の初恋の種を結んでいけばその内ゆうちゃんのお相手とバッタリご縁があるかもよ』
『そ、そうか!オレのすぐ近くに潜んでる場合もあるもんな!』
『そういうことだから、はりきってこー!』
『おー!』