待ち合わせの時間よりもずいぶんと早くついてしまった。
結人くんたちは13時にくるというのに今はまだ12時半だ。
買ったばかりの服に身を包み気合いは十分すぎるほどに溢れていた。

あまりに早すぎるのでせっかくだし少し駅前を歩いてみることにする。
必要以上に外出をしないので、この辺りをウロついた事が無かったのだ。

商店街を抜けると一気になにもなくなる。
もうお店もないし戻ろうかな。
そう思ったとき、ただ事とは思えない声がうっすらと聞こえてくる。

『てめー、テツが怪我したじゃねぇか!』
『慰謝料10万払いやがれ』
『いや、そっちがぶつかって…』
『うるせぇな!ぶっ殺すぞ!』

声のする方に向かうと通り沿いにある細い道の途中で人が絡まれているようだった。
ど、どうしよう。
怖いし、逃げようかな…
そう思ったときふと見覚えのある姿が目に入る。

その瞬間弾かれたように気がついたら叫んでいた。

『お、おまわりさん!こっちです!ここでケンカしてます!』

今まで出したことのない大声が出ていた。

『くそ、行くぞ』
男たちが走って去っていく。
去っていく男たちを見ていたらふっと全身の力が抜ける。
一瞬のことなのに長距離を全力で走りきった後のような解放感で腰が抜けてしまったのだ。

何も考えられなくてぼんやりしていると目の前に足が見えた。

『大丈夫?』
見上げると六条大輔その人が手を差し出し立っていた。

『あ、は、はいっ』

差し出された手に自分の手を重ねる。
グイッと引き寄せられ、おかげでスッと立ち上がることが出来た。

『ろ、六条くん、ありがとう…』
『いや、俺の方こそありがとう。助かったよ』
『わ、私、六条くんの姿が見えたから無我夢中で…』
『うん、ありがと』
『無事で良かった…』

心から安心したせいかヘラリとだらしのない緩みきった顔になってしまう。

『……!』
『あ、あの時の逆になっちゃったね…』
『……へ?』
『あ…覚えて…るわけないよね。えへへ』

六条くんは意味が分からないというような表情を浮かべ困ったような顔になった。

『あ、その…』
『……』
『わ、私、昔…中学生の頃に今みたいに絡まれたことがあって…』
『え』
『六条くんに助けてもらったの…!あのときはありがとう』
『……?……うーん…?』
『すごく怖くて立ち上がれなくなっちゃったんだけど今みたいに大丈夫?って六条くんが声をかけてくれて…高校に入ってすぐにあの時、助けてくれた人だーって気がついてたんだけど中々お礼を言うタイミングがつかめなくて…』
『その…ごめん、覚えてなくて』
『あ…ううん!いいの!あの時のは本当にありがとうね』
『う、うん』
『ふふ、やっと言えた…!』