大輔のせいで初恋への憧れが完全に薄まったのは言うまでもあるまい。
本屋で恋愛のハウツー本を読み漁る。

『あれ?結人さん?』
『あ!橋本さん!』
『また会いましたね!ん?好きな人でもいるんですか?』
『え!あ!いや!』

手に持っていた恋愛雑誌を慌ててしまう。

『あはは、隠さなくていいですよ!』
『いやほんとに違うんですって!』

慌てつつもなんとなく目線は顔から下に向かってしまう男の性がうらめしい。
全ては大輔のせいだ。

同じ電車を利用しているのは知っているのでなんとなく一緒に帰ることになった。

『で?どんな子なんです?』
『いや!ほんとに違うんですよ!友達が悩んでて!』
『へぇー友達?』

全然信じてない目を向けられる。
話題を反らそうと必死に頭をフル回転させた。

『あ!かーくん!西野とはどういう関係なんすか!?』
『あー……うん』

橋本さんの表情が暗くなる。
話題のチョイスをミスったようだ。
また別の話題に変えようと頭を働かせる。

『かーくんとは幼稚園から一緒だったんです』
『へ?』

予想とは裏腹に橋本さんは話始めた。
橋本さんは中学受験をしてしまったので西野と小学校までしか一緒じゃなかったけど、二人はすっごく仲が良かったらしい。
小学校高学年になってくると男女で仲良くしてるのがからかわれるようになって、その時西野が『一緒にいたい人と一緒に居てなにが悪いんだ』ってクラスメイトに言ってくれたんだって。

それが橋本さんも嬉しくてその時から今までの仲良しとは少し違うもっと別の何かがある気がしたらしい。
それが何か分からないまま、学校が離ればなれになることになる。
橋本さんが受験に合格したから。
西野にその事を告げるとそれから少し距離が出来たような気がしたんだけど、卒業式の日、また会おうねって泣きながら約束したんだって。

あの無愛想な西野からは全く想像できないが。
その約束が守られることもないまま、この間久しぶりの再となったのだ。

『私、小学校卒業したあと告白されたりとかして男の子と付き合ったりもしてみたんですけど』
『うん』
『私が一緒に居たいのはこの人じゃないかーくんなんだ、かーくんのことが好きなんだって気づかされたんです』
『そっか』
『だからこの間久しぶりに会えて嬉しかったけど、すごく悲しくて』
『……』
『あ、何言ってるんだろ!あ、結人さんココで降りるんですよね?』
『あ!ほんとだ!じゃあまた!』
『はい!また!』

橋本さんに手を降って電車を見送る。
なんとも切ない気持ちになった。

『初恋ってのはうまく行かないことが多いからねぇ』
『うわ!』

こいつはつくづく背後から突然現れるのが好きらしい。