ドク、と冷たく心臓が跳ねた。
後ろから話しかけられた。
うそだ、いつの間に。
「上月さん、ちょっといい?
話したいことあるんだ」
振り向いた先には笑顔があった。いつも皆に見せている、人当たりのいい優しい笑顔。
口調も穏やか。乱れのない制服もいつもどおり。
「ええっと……もうすぐ朝礼始まる」
「大丈夫、あと10分もあるから」
「でも、」
その先は言わせてもらえなかった。
腕をつかまれて、ぐいーっと引っ張りあげられる。
指の力、強くて少し痛い。
逆らえないと諦めて、仕方なくついていくことにする。
男子たちから「うおーっ⁉」と歓声みたいなのが上がって、「ヒュ〜」なんてひやかされる。
火が出そうだった。
たどりついたのは、非常階段の手前。
「昨日はごめん、気が立ってたんだ。無神経なことしたって反省してる」
本当に申し訳なさそうにうなだれて謝られるから、思わず、ぐっと心が揺さぶられそうになったけど。
「嘘だ。騙されない……気が立ってたくらいであんなに人格変わるなんてありえないもん」
「それは、」
「謝られたって無理、許せない……」
キッと睨んでみせると、中島くんは笑顔を少しずつ消していって、仕舞には、はぁーっと、昨日みたいな気だるいため息をついた。
「まじで扱いにくい女。うぜぇー」
声のトーンを一気に落として、本性を見せる。
ああ、やっぱり。
「思いっきりぶっ叩きやがって、痛ぇし。そんまま走って逃げるし、なんなんだよ、お前」